この図書館は、その建築と内装の素晴らしさから観光名所のひとつでもあり、私も見学したことはあるものの、利用した事はなかった。 条件として考えていた「wifiが繋がり、電源があり、静かである事」はもちろんの事、細部にまで装飾の施された美しい壁や圧倒的な天井画、膨大な数の蔵書がシンと無言でこちらを待っている感覚、そして周りの利用者達が皆真剣に勉強や仕事をしている雰囲気に、「これ以上の場所はない」と感動したのだった。
始め、3階のRose Roomという大広間を利用していたのだが、ある時、奥に小さな部屋があることに気がついた。 そこは美術や建築専門書が収められている部屋で、「入っていいのかな」と思いつつもそうっとドアを開けると、大広間よりもさらに数デシベル静かな空間が広がっていた。それ以来、その部屋は私の世界一集中できる最高のオフィスになっている。
毎日のように通っていると、部屋を出るたびに本を盗んでいないかチェックする係の黒人のおじさんも、バッグの中身を見ずして"No books? Good to go"と甘くなるし(そもそも始めからちゃんとチェックなんてしていなかったのだけど)、館内に入っている小さなカフェの寡黙なお兄さんも、コーヒーの注文の際に"Whole milk, right?"と覚えてくれ、少しだけ口角を上げてくれるようになった。
シーンとした図書館で、ひたすらにパソコンと向き合った後は、裏に広がるブライアントパークの椅子に座り、夏恒例の様々なフリーの催し〜卓球やジャグリング、チェスや語学レッスン等々〜を楽しんでいる人々を眺めて目を休めた。
芝生の上では無料の映画上映もあり、8月中旬には図書館で仕事をした後に場所取りをして、スペインから来た友人と"All About Eve"(イブの総て)を寝そべって観た。
とにかく、この夏はずっとこの大きな図書館とブライアントパークと一緒だった。
それが先週あたりから、図書館の大きな窓から西日が差す時間が少しずつ早くなったことに気がついた。 8月20日の"Raiders of the Lost Ark"(インディ・ジョーンズの一作目)の野外上映を境に夏が終わった気がする。
今日は弁護士と会う為に(先週、銃撃事件のあった)エンパイア・ステート・ビルへ行ったのだが、そのワン・ブロック先に、これまたNY公立図書館の一つ、"Science, Industry and Business Library (SIBL)"という図書館があるので寄った。
ここはビジネス系の図書館の為か、椅子がハーマン・ミラーのアーロンチェアでとても快適なのだ。Stephen A. Schwarzmanの方は固くて重い木の椅子なので、おしりが痛くなるし、ひく時にギィと言って静まり返った部屋に響き渡るので気を遣う。でも、そういうことを踏まえても、やっぱりどこの図書館よりも圧倒的に魅力的なのだ。家から近い、ブルックリン公立図書館等、ちょっと浮気をしてみようとしたけれど、やっぱりここに戻ってきてしまう。(あそこは館内全体が何か揚げ物っぽい匂いがする。。)
頭がいいのと、親には負担をかけたくないというので奨学金で大学へ入学、もの静かで品格があるのに、みんなに(公立だけに)大きく心を開いている人気者、Stephenはそんな性格なのだ。
でも、今日見つけてしまった。 新たに魅力的な図書館を。
その名も"Morgan Library & Museum"。
前々から外観を見て気になっていたのだが、今日とうとう足を踏み入れてみたら、Stephen A. Schwarzmanとはまた違ったスノッブな魅力があった。それもそのはず、こちらはこじんまりとした私立図書館(兼美術館)で、そのまま公立と私立の学風の違いのようなものだ。1906年に、あのJ. P. Morgan氏の邸宅兼私用図書館として建てられ、2006年にはイタリアのデザイナーRenzo Pianoがエントランスや内部の改装を手がけたとの事で、小粒ながら洗練度がハンパない。
ミュージアムショップを覗いたら、製本や印刷に関する本が並んでいて興奮。趣味が合った!
Ellisworth Kellyという、ミニマムな作風の彫刻家の展示が良さそうだったので、入館料$15を払って入ろうとした所、係のお兄さんに「今日はもうすぐ閉まるし、金曜日ならタダで入れるんだから今度にしたら?」と言われ、出直す事に。
外見と育ちの良さそうな雰囲気に惹かれて、中身はまだ見ていないので、想像は膨らむばかり。
まるで恋の始まり。
でも、結局またStephenに戻るのだろう。
この夏を共にした、大らかな夏の恋人、Stephenへ。
Stephen A. Schwarzman Building |
Morgan Library & Museum |