2012年4月3日火曜日

猫の集会仲間〜田中さんの事〜

1999年、NYでの1年間の留学生活を終え、日本に帰国した初夏でした。 休学していた大学に復学したものの退屈で仕方なく、心に決めていたデザイン専門学校の受験の為にデッサンを初めていた頃、 NYで知り合ったYukiという、いまや家族のような友人が日本へ数ヶ月遊びに来ました。 彼の情熱的で真っすぐな性格と若さ(当時はお互い20歳そこらでした)に触れ、NY帰りで勢いづいており、高ぶった気持ちが日本で行き場をなくしていた私は、毎夜のようにYukiと出かけては人と出会い、何か突破口を見つけようともがいていました。

Yukiには、日本にいる間に何か大きな事をしようという目的があったのですが、それが現実となったのが、彼が企画をした"Quiche"というパーティでした。ゲイであるYukiによると、"Quiche"=キッシュというのはゲイの象徴的食べ物との事での名付けでしたが、この企画はゲイパーティではなく、面白い事、新しい事を求めているクリエイティブな人達の為のパーティというものでした。
Yukiの熱意に共感された方々のご協力をもとに、会場は246沿いの青山ブックセンターの手前にある"un cafe"というレストランの広い中庭に決まりました。
フライヤーを刷り、手分けしてこれぞと思う場所に赴いては来て欲しいと思う人に片っ端から配りました。例えば、新宿伊勢丹の中に当時気に入っていた、Colette Maloufというヘアアクセサリーのブランドが入っていたのですが、そこの店員さんが素敵だったので、「今夜なんですが、、絶対に面白いので来て下さい!」と渡したり、道を歩いていていい感じの人がいたらつかまえて、「あのぅ...」と手渡していました。

さあ、やれるだけの事はやった、だけど果たしてどのくらいの人が来てくれるのだろうか、という心配は、開始時間と共に吹き飛び、庭は人で埋め尽くされました。 伊勢丹の店員さんも、同僚の方を連れて「ほんとうに来ちゃいました!」と顔を見せてくれました。

 私はYukiと共に、お客さんに挨拶をしたり気を配ってまわる、つまりホステスの役だったのですが、その中で田中啓一さんと出会いました。 そこで何を話したのかはよく覚えていませんが、とにかくそれから、ギャラリーオープニングや新しいカフェの開拓、クラブ遊び、ドライブ等々、よく遊んで下さるようになりました。 お酒を全く飲まないこと、凄い方なのに偉ぶる様子が全くないこと、そして誰よりも気持ちが若い、という部分は、あれから何年経っても変わっていません。

以前、某ソーシャルネットワーキングサイトで田中さんから頂いた紹介文が、この不思議な関係を的確に表現されていたのでご紹介したいと思います。  
関係:猫の集会仲間
 猫は近所に住んでいる飼い猫、ノラ猫問わず、定期的に集会をするらしいです。そこで何をしているのかは定かではありませんが、何となく僕達もそんな関係かなと思います。2人で会うことはあまりなく、仲のいい友達たちとたまに会い近況報告やあてどもない四方山話に花を咲かせるという、ながーく続きそうな関係です。
正にその通りです。次の集会ではお互いどんな魚を口にくわえて集うのか、今から美味しい魚をキャッチすべく、ヒゲのアンテナを張り巡らしておかなくては...。
 
あの1999年の初夏、その中庭でのパーティは、文字通り私にとって出会いの庭であり、海でした。あの夜撒かれた出会いの種が、13年経った今でもその葉脈を辿ってびっくりするような花を咲かせることがあります。

たとえば、その田中さんが本当にひょんなきっかけからご紹介下さった、渡辺裕一さんのこと...。


〜次回につづく〜


【田中啓一さん】
「COMME des GARÇONS HOMME」「COMME des GARÇONS HOMME HOMME」のデザイナーとしてご活躍の後、2010年よりご自身のブランドKONTRAPUNKT(ドイツ語で対位法)をスタート。
ブランドコンセプトの「古典や基本を尊重し、且つ前衛を恐れず、常に新鮮であり続け、華美に走らない、そして、時としてウイットを感じさせるデザイン。文化的な思考をする人、特に芸術に関心のある人へ向けた被服。」というのは、正にそのまま田中さんの内面を映し出しています。
KONTRAPUNKTのウェブサイトはこちら!→ http://www.kontrapunkt.jp/