2012年8月26日日曜日

残暑お見舞い申し上げます〜ペンギンの巡り合わせ〜

残暑お見舞い申し上げます。

というタイトルのブログ記事を書いたのは、二年前の夏でした。
80年代に、聖子ちゃんの歌をBGMにポテッとしたペンギンが登場する、サントリー缶ビールの名CMがあったことを覚えていらっしゃる方は多いと思いますが、私は昔からこのCMが大好きです。Youtubeが発明されてからは毎年夏になると、花火やお素麺と並ぶ夏の風物詩として、1人で動画を楽しんだり、友人達に暑中見舞いや残暑見舞い代わりにEmailで送っては「懐かしい」「夏を感じる!」と好評を得ていたのでした。

この大好きなペンギン動画をブログ記事に載せた所、前述の田中啓一さんより「あのCMのコピーを作ったのは僕の友人なんだよ。エミちゃんのブログの事もお教えしたよ。」とご連絡をうけ、驚いているのもつかの間、その作者のご本人よりコメントを頂きました。
あのCMを見て、幼心に懐かしさやせつなさを感じたのは板橋区に住んでいた7歳頃のことだった筈で、まさかその20数年後に制作者の方とお話しするなどとは想像できた訳もありません。

その方の名は、渡辺裕一さん。

サントリー缶ビールのペンギンシリーズや、日清カップヌードルのアーノルド・シュワルッツネッガー起用のCM「ちからこぶる。」、ジャネット・ジャクソンを起用したJALの「只今、JALで移動中。」等々、数々の名コピーを産み出して来られた売れっ子コピーライターであり、「小説家の開高さん」という、とてつもなく面白い本を書かれた作家でもいらっしゃいます。

渡辺さんは開業医の1人息子として生まれ、親戚は殆どお医者さん、医者に非ずは人に非ずという環境に嫌気がさし、高校卒業後、過酷な労働で有名な蟹工船の乗組員として、函館からカムチャツカへ向かいます。この本の面白さは、10編に渡るお話の全てが、そんな渡辺さんの実体験を元に書かれているというところにあります。そして、ただの痛快な冒険談というのは、炭酸ソーダのように喉元に一瞬の爽快な刺激を感じた後、すぐに消えてしまうものですが、渡辺さんの文章のように、旅の先々で出会う人々(時には動物)とのささやかな会話や交流、表情、そして普通の人なら忘れてしまうような情景を繊細な感受性で記憶し、それを的確な言葉で再現されている冒険談は、灼けるように熱く強烈な温度が深く長く残ります。度数の高い、強いお酒を飲んだ時の、カッとして胸にジーンと残る熱さに似ているかも知れません。

私は「小説家の開高さん」を、晴れた日のブライアントパークの芝生の上で、ブルックリンからマンハッタンへと向かう地下鉄Q線の中で、あるいはルームメイトが寝静まった後の布団の中で、何度もランダムに開いてはその冒険を頭の中で映像化し、そのつど目眩を覚えてます。

タイトルでもある「小説家の開高さん」の章に、渡辺さんが憧れていた開高健氏の、「やりたいことをやり尽くしなさい。飲み尽くしなさい。あとで戻ってきても、何も残っていないのだよ。」という言葉が出てきます。この言葉に渡辺さんほど忠実に生きていらっしゃる方はいないように思います。

私の表現力ではとてもお伝えしきれていませんが、是非ご一読なさってみてください。
「小説家の開高さん」(フライの雑誌社)

そして、渡辺さんのとっても面白くて気持ちの良いブログも、是非!
文章力の高さに「さすがプロだなあ...」と毎回脱帽させられます。
「酒の肴日記」



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