2011年5月15日日曜日

A pinch of Salt

ランダムにつけている日記をめくってみた所によると、丁度4年前の今日、"Touch of Spice"というマイナーなギリシャ映画をDVDで借りて観ていたようです。(マイナーとはいえ、本国ではアテネで封切られるやいなや、タイタニックに次ぐ大ヒットを飛ばした模様)

サブタイトルは「人生は料理と同じ。深みを出すのはひとつまみのスパイス」。

1950年代のコンスタンチノープル(旧称イスタンブール)で、少年ファニスはスパイス店を営むおじいちゃんのもと、スパイスや天文学を通じて人生の妙を教わっていきます。

Pepper...is hot and scorches, just like the sun
胡椒は、辛く、じりじりと焼き焦がす太陽。
Salt... is used as needed to spice up one's life
塩は、人生にピリリと味わいをもたらすのに使われるもの。
Cinnamon... is bitter and sweet, just like a woman
シナモンは、ほろ苦くて甘い、そう、女性と同じ。

というように。

この映画、脚本も兼ねる監督の体験が基になっているそうで、ギリシャとトルコとの間の複雑な 政治動乱、歴史背景に心が揺さぶられます。アメリカのBBQソースでは到底出せないような、正にスパイスのような複雑で豊かな後味の残る映画です。個人的に、とても好みの映画でした。


この映画を観た当時、私は渡米するひと月前で、野望と希望と不安が入り交わった気持ちに、さらに何か未知の感情のツボが刺激されるのを期待して、それと同時にメディテーションとして、スパイスをあれこれ調合してカレーなんかを作るのにハマっていました。宛らあやしげな魔女気分。
混ぜていると、スパイスの強烈な、めくるめくような香りが鼻孔を刺激しつつ、赤銅色、黄土色、山吹色とそれぞれに鮮やかな色が目にも刺激をもたらします。

最近、マディソン・スクエア・パークで色とりどりのスパイスを山盛りにして並べている出店があったので、またやってみようかなと。キッチン全体が極彩色な匂いに包まれてしまうので、ルームメイトの了承を得ないと、ですが。(彼女達も料理好き/面白いもの好きなのでGOサインは目に見えているのだけど)


ひとつまみの塩

                谷川俊太郎


 買っておけばよかったと思うものは多くはない
 もっと話したかったと思う人は5本の指に足らない
 味わい損ねたんじゃないかと思うものはひとつだけ
 それは美食に乾きつつ気おくれするこのぼくの人生

 アイスド・スフレのように呑み下したあの恋は
 ほんとうはブイヤベースだったのではないか
 クルネのように噛みしめるべきだったあの裏切りを
 ぼくはリンツァー・トルテのように消化してしまったのか

 気づかずに他のいのちを貪るぼくのいのち
 魂はその罪深さにすら涎をたらす
 とれたての果実を喜ぶ舌は腐りかけた内臓を拒まない
 甘さにも苦しさにも殺さぬほどの毒がひそんでいる

 レシピはとっくの昔に書かれているのだ
 天国と地獄を股にかける料理人の手で

 だがひとつまみの塩は今ぼくの手にあって
 鍋の上でその手はためらい・・・そして思い切る

 レシピの楽譜を演奏するのは自分しかいないのだから
 理解を超えたものは味わうしかないのだから



そういえば、こちらの過去のブログ記事で書いた、「まだ見ぬかわいいハーブ達」は、先日ようやくお部屋にやってきました。毎朝バジルとローズマリーが、窓辺でさわやかに香るのが、嬉しい。

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